何も調べずにタイトルだけでポチッした「老後の資金がありません」が「ノウハウ本」ではなく「小説」であることが分かったのが読み始めの数十秒。こんなシニア夫婦が本当に要るのかと思えるような老後資産の食いつぶし。それが当人たちの無駄使いというわけではない点にドラマ性があるわけですが、読み始めの序盤からイライラ感が漂い、それが却って最後まで読ませる仕掛けにもなっています。最後は小説らしく風呂敷を畳んで終わるので、ドラマにはなっていないけどドラマの原作本みたいなものと思えば納得いきます。
さて、その垣谷美雨さんの「うちの子が結婚しないので」もタイトルにつられてポチッしました。
うちの子が結婚しないので / 垣谷美雨 著
老後の準備を考え始めた千賀子は、ふと一人娘の将来が心配になる。28歳独身、彼氏の気配なし。自分たち親の死後、娘こそ孤独な老後を送るんじゃ…?不安を抱えた千賀子は、親同士が子供の代わりに見合いをする「親婚活」を知り参加することに。しかし嫁を家政婦扱いする年配の親、家の格の差で見下すセレブ親など、現実は厳しい。果たして娘の良縁は見つかるか。親婚活サバイバル小説!
「うちの子が結婚しないので親が代わりに結婚相談所に通って相手を見つけます」という内容の小説です。「結婚しない人が増えている」を題材とした社会情勢を語る著書ではありません。
少し前までの世代なら、「結婚するのが当たり前」という義務感ではなく「結婚するのが普通」という社会でした。20代後半、遅くても30代前半に結婚、50台半ばくらいには子供が独立して、そろそろ孫かなという時代でした。
現代は“多様化”というキーワードで誤魔化していることも多そうですが…
「生涯、結婚しない」と決めて人生設計を描いて生活している人はそれはその人の価値観ですから良いと思います。
この「うちの子が結婚しないので」の主役の娘は、特別な理由もなく本人が「結婚しようと真剣に思っていない」ことが原因の典型的な「○○だから結婚できない」という言い訳タイプです。本当に結婚したいと考えているタイプなら本人が能動的に動きます。
作中にもありますが、「メリット、デメリット」とか「損得」で結婚生活を考えていては結婚などできません。稼ぎが良い人がいつまでも親と同居でさらに生活費の殆どが親が負担しているのなら、50歳前までに数千万円の貯蓄など簡単です。親がいつまでも生きているとは限りません。一人になった時、貯めに貯めた資産を眺めてそれで幸せなのか。それで良しと考える人もいるかもしれません。作中に出てきた自立した女性も増えているかもしれません。
さて、作品のテーマになっている「親婚活」は「親による代理婚活」のことです。「忙しい我が子の代わりに見合い相手を探しましょう」という今どきのシステムです。親同士で話を進めるので「後から親が反対」ということがなく、家柄も最初から分かるので「つり合い」が取れる相手を見つけやすい。
客観的に見れば「親がここまで面倒を見なければいけないのか!」と嘆きたくなりますが、「結婚するのが普通」ではない時代になってしまっているならば、「我が子の結婚相手を親が探す」も仕方がないのかもしれません。「世話好きの近所のおばちゃん」って絶滅危惧種でしょうから。
小説には起承転結がありそうなものですが、この作品には“転”がありません。長々と“承”が続いて、いっきに“結”です。主人公の娘の「気持ちの変化」が出てきて、そこからいっきに風呂敷が畳まれる点からして、「やっぱり結婚って本人の気持ちの問題では?」がオチであるような気がしなくもありませんが、でも現実問題としてそうであるので、良いまとめ方だと思います。
30歳前後の息子、娘を持つ50代の人にお勧めの一冊です。