新しい切口『定年前後の「やってはいけない」』は50歳過ぎなら必読

50歳を過ぎると「定年まであと何年」「定年になるのが楽しみ」「毎日が日曜日になったらあれしようこれしよう」とあれこれ妄想するもので、そのような人たちをターゲットにした書籍が大量に出版されていますが、「老後が不安」と感じているのはもっと下の世代だと思います。

私の世代のもう少し下の世代までは「頑張って仕事をすればキッチリ評価され収入も増えた世代」でしたので、その世代で頑張ってきた人なら50歳になれば不自由なく生活ができてさらに貯蓄もあるはずです。定年までには子供も独立して、マイホームのローンを返し終えるだろうから「定年後もなぜ働く必要があるんだ」と考えている人が多いです。安い給料で休みが少なく残業も多かった若いころを乗り越え、10年、20年経ってようやくまともな収入になり、30年経って余裕が少しあるくらいの収入になったわけです。ゆえに「休み多い、残業少ない、結果的に給与も少ない」という今の若い人たちとは違うのです。なんとなく今の若い人には「頑張っても意味がない」という雰囲気さえ感じられます。

しかし、50歳過ぎれば安泰というのは私の世代よりずっと上の世代の人たちです。現在は50歳で収入が頭打ちになります。いろんな手当で見かけ上の収入が多かった人なら段階的に収入が減っていく場合もあります。

情報があふれている現代社会にはやたらと不安をあおる事柄が多いようで、ますます漠然と「老後が不安」と考える人が増えます。私の職場には「老後が不安だから」と趣味に金を使わずに貯蓄に励む若者が複数名います。今の若者は「金がない」ではなく「金があっても使わない」なんだろうなと思える実例です。

さて、タイトル付けの上手さにつられてポチッしたのが書籍『定年前後の「やってはいけない」』です。「やってはいけない」なんて書かれていると「やってはいけないこと」がずらずらと書かれているはずと思い込みます。私のようにタイトルに釣られて買ってしまう人が多いかもしれません。


定年前後の「やってはいけない」 (青春新書インテリジェンス)

会社に定年はあっても、人生に定年はない。人生後半戦を楽しむ生き方。雇用延長で働く、資格・勉強に時間とお金を使う、過去の人脈で仕事を探す―3000人以上の再就職をサポートしてきてわかった、うまくいく人、いかない人の違いとは。

ざっくりと「悠々自適な生活など過去の話であり定年後も働くのが当たり前」が大前提になっているため、「定年後は趣味を楽しみながらのんびり過ごす」という人は全く参考になりません。「ちびまる子ちゃん」の家庭を持ち出して「悠々自適な老後」は過去の話という説明は分かりやすいです。そして、隠居生活に入ったあとに何年生きるのかという説明で「働くのが当たり前」を納得させられますが、60歳ならできることでも70歳では体力的に無理となるため、結局のところ定年後に働かなくても良いだけの貯金を残すしかないとなります。

書籍の本題は「定年後も働く」であり、「仕事が好きで働くわけでは無く、生活のために働かなければならない人が仕事に就くためには」という内容で説明は進みます。

「人生90歳、45歳までの前半戦を第1ハーフ、45歳以降の後半戦を第2ハーフ」「45歳を過ぎると新しい能力はほとんど身につかない、人間の能力は45歳でピークを迎える」「人生は後半戦のほうが、ずっと楽しい」のように「そう言われてみればそうかもしれない」と思わせる説明の部分は読み手側に「自分はどうだったのか」という振り返る機会を与えてくれます。ここまでくると、この書籍のターゲットは50~55歳であることが分かります。45歳を少し過ぎたくらいだと「そんなことは無い!」と反論したくなるかもしれません。

私の場合は若いころからあれやこれやと自分がやりたいことと会社が望んでいそうなことがマッチしていたため、仕事と趣味の境目が曖昧でした。趣味の感覚でいろんなことに取組んで結果も出してきたため、最初の上司の時代は高い評価をしてもらえて給料もどんどん上がりました。しかし、上司が変わり、評価方法も変わり、とどめは「もう仕事で得るものはないな」と感じ始めたのが45歳になる少し前です。そこからは完全なる趣味に全力投球です。仕事の方は惰性ですが、持っているノウハウやスキルでやっていけるわけですので、本来の「給料をもらうための仕事」です。お金以外に何か得るものがあった時期は「給料はあくまでも結果」でしたが、なんとなく割り切れるようになったのが45歳を少し過ぎたころです。

著者が言う「45歳」というのは偶然ながら当たっています。

「定年後も働く」となった場合の選択肢は大きく分けて「再雇用してもらう」「再就職する」の二つ。共通点は処遇、待遇、給与面にプライドを待たないこと。「働くこと」が最優先事項。それを踏まえていくつかの事例で「現実はこう」を教えてくれます。この時点で私は「やっぱり定年後に働くのは嫌だな」と思えてきます。全て妥協して年間の給与が240万円で5年間働いて1200万円。だったら予定より1200万円多く貯蓄するか、リフォームとか車を我慢して1200万円使わないという選択肢の方が良いです。給与面ではなく「この仕事をやりたい」で選ぶことができるなら、“家計の足し”レベルの給与で十分。要するに生活のためにやりたくもない仕事に就いて安月給でこき使われるのは嫌だということです。

ここまでが第一章と第二章を読んだ感想です。タイトルの『定年前後の「やってはいけない」』が該当する話は「第3章」に書かれています。私が以前から思っていたことも書かれているため、世の中の常識(当たり前)が変わっていく可能性がありますが、それは今の若い人が老後を迎える数十年後かもしれません。

「第4章」には「なぜ働くのか」という基本的なことが書かれています。自然の生き物に例えるとその通りであって、日本のいろいろな問題もクリアされると思います。日本においては、アジア的な思考と欧米的な思考がごちゃまぜになっているため、その弊害で将来的にいろんな制度が破たんするかもしれません。この書籍に書かれている事例ならば欧米的な思考と制度を私は支持します。

「悠々自適な老後」という淡い期待を持っている人は「第4章」から読んでから「第1章」「第2章」を読むと良いと思います。「定年後はのんびり過ごす」と決めていた人が「第1章」から読むと反感を持つ可能性大です。



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