自己責任で片付けることができない健康問題

NHKスペシャル取材班の著書はNHKらしく万人向けの内容であり文体ですので読みやすいです。専門家にありがちな上から目線ということもないため「最初の一冊」としては良いかもしれません。


健康格差 あなたの寿命は社会が決める (講談社現代新書)

低所得の人の死亡率は、高所得の人のおよそ3倍―――。
「健康格差」は、健康に対する自己管理能力の低さが原因ではなく、生まれ育った家庭環境や地域、就いた職業や所得などが原因で生じた、病気のリスクや寿命など、私たち個人の健康状態に気づかぬうちに格差が生まれてしまうことを指します。
私たちは不健康・不摂生な人々に対して安易に「自己責任論」を振りかざしてしまいがちですが、現在ひそかに進行しているのは、所得や家庭環境などにより自らの健康を維持する最低限の条件すら蝕まれつつあるという異常事態です。まさに《寿命の格差》とも言うべき「健康格差」の危機的な実態に、NHKスペシャル取材班が総力を挙げて迫ります。
「健康格差」を放置していると、将来的に社会保障費が爆発的に増大していく。私たちが「健康格差」に無関心ではいられないのは、膨張する社会保障費への対策は喫緊の課題だからです。そして、私たちの誰もが健康を損なう事態になりかねないからです。
年金・雇用・介護・少子化など、NHKスペシャル取材班は様々なテーマを取り扱ってきましたが、「健康格差」はこれらのすべての根本に結びつく問題であることがわかりました。社会と健康の問題を深く考えるうえで必携の1冊です。

第1章 すべての世代に迫る「健康格差」
第2章 秋田県男性が短命な「意外な理由」
第3章 イギリスの国家的対策と足立区の挑戦
第4章 「健康格差」解消の鍵は?
第5章 白熱討論! 「健康格差」は自己責任か
第6章 拡大する日本人の「命の格差」

帯に書かれている「寿命って自己責任ですか?」というキャッチがこの書籍に書かれている全てです。この疑問に対して多少なりとも自分の考えを持っている人は必読です。

私は毎月当たり前のように給与から天引きされる健康保険料に不満を持っています。なぜ所得に比例して健康保険料が高額になるのでしょうか。納めている健康保険料に関係なく自己負担は3割です。さらに年額で40万円以上納めていても医療費は殆ど使っていません。極論からすれば、過去に納めた健康保険料の総額を考えれば無保険で全額医療費負担の方がお得です。

書籍を読むとその不満がさらに高まります、所得が低いほど医療費を使っているわけで、その割には納めている健康保険料は非常に少ないのです。多額の健康保険料を納めている人たちは健康で医療費を使わない。民間の保険制度に比べると矛盾していることは明白です。

厚生年金のようにたくさん払った人はあとから年金をたくさん貰えるのなら納得できるでしょうし、所得に関係なく健康保険料を一律にするのなら相互扶助としては仕方ないとは思えます。そして、健康志向が高ければ防ぐことができる「生活習慣病」に関しては、使った医療費に比例して自己負担の割合を増やして欲しいものです。

勤務先で健康問題のことを提案すると「自己責任」に話を持っていこうとする人が大勢います。その人たちは日本の制度における日本の近い将来が見えていないのです。社会が何もせずに「自己責任」で片付け、莫大な医療費を使う人が大勢現れ、健康保険の崩壊、自己負担増大、治療できない人が働けなくなり生活保護に頼り、日本の財政を圧迫。

アメリカのように根本が「自己責任」で成り立っているお国柄なら「健康問題も自己責任」で良いのでしょうが、日本の場合は「健康格差 あなたの寿命は社会が決める」に書かれているように日本国憲法で保障されているため「自己責任」で片づけることはできません。

日本国憲法第25条
第1項
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
第2項
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

『第5章 白熱討論!「健康格差」は自己責任か』で何らかの結論が書かれているのか期待しましたが、番組内での議論に多少肉付けして掲載されているだけです。専門家とは違い、NHKの立場としては個人的な意見を書くことができないのかもしれません。

あくまでも「日本の現状はこうです」「他国の上手くいっている取組み事例はこれです」「いろんな人の意見」が書かれている書籍ですが、自己責任で片づけずに実際に取り組んでいる行政の事例を知りたい場合に参考になります。特に健康志向が低い人にとって「健康になります」という働き掛けは全く無意味であることは「目から鱗」です。



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