「秒速5センチメートル」は作家性が高い

新海誠監督作品の「秒速5センチメートル」は、2006年2月劇場公開の石川寛監督作品「好きだ、」(キャスト:宮崎あおい、瑛太、永作博美、西島秀俊)に通じる繊細さを感じます。


「好きだ、」については大まかな構成だけ用意され、台本は有ってないようなもの、役者がそれぞれの役(ユウ、ヨースケ)になりきって、その場その場の言動を考え演じる。演じるというよりは、ユウとヨースケのごくありふれた生活の一部を映像化させた作品。お互いに好きなのに「好き」の一言を声に出せないもどかしさ。まさに観ている側がじれったくなる緊張感。言葉に出さなくてもユウとヨースケが何を考えているのか、仕草や表情で全てを表す演技力。この作品も宮崎あおいさんの演技力が素晴らしいです。

「ガラスの仮面」の中に「役になりきって相手を本当に好きになる」がありますが、それを地でいっている作品です(※出演者のコメントより)。分かりやすさを求められる現代では受け入れられない作品ですが、新海誠作品の中でSF要素がない作品が好きだという人には向いていると思います。ただ、気が短い人は途中で投げ出す可能性は大です。


小説・秒速5センチメートル

「秒速5センチメートル」については、アニメ版(2007年3月公開)が先に作られて、その後に新海誠氏ご本人が小説版(2007年11月発刊)を執筆されました。ご本人曰く「相互補完」のようですが、アニメ版を観てから小説を読めば微妙な心理描写を補完され、小説を先に読めば、アニメ版を観た時に「?」が付くこともなく映像に集中できるのかもしれません。よって、アニメ版、小説版、アニメ版の順番が良さそうです。

映像がない小説の場合は当然ながら心理描写は文章で表すわけですが、読み進めると「これは実写化は不可能だろうな」と思えてきます。篠原明里と澄田花苗については演技力があればなんとかなるかもしれませんが、遠野貴樹を演じることができる俳優さんはいないと思います。

それとこの作品に感銘を受けるのは30歳過ぎの男性のような気がします。若い人には退屈な作品に思えるかも。一般受けするような恋愛ものではありませんが、「秒速5センチメートル」は作家性が高い作品です。※私は作家性が高い作品が好きです



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